• No.0035
第35回:金は急騰そして急落、1980年相場の再来か?

2026年現在、ドル建て金価格は1トロイオンス=5,000ドルという歴史的な大台に到達し、世界の金融システムにおけるその地位を決定的に変容させています。かつての装飾品や一時的な避難資産としての境界を超え、今や金はグローバル経済の根幹を支える「戦略的インフラ資産」へと進化を遂げました。
本稿では、2025年から続く異常な強気相場の背景を詳述し、中央銀行の動向、産業需要の変遷、そして既存の金融秩序に対する信認低下がどのように絡み合ってこの価格形成を導いたのかを多角的に分析します。

1. 2026年2月末までの主な金相場の動き

2026年1月29日、ドル建てNY金4月物は1トロイオンス=5626.8ドルの史上最高値を記録。その後、ジュネーブで行われている米国・イラン間やロシア・ウクライナ間の和平交渉に進展の兆しが見えると、安全資産としてのプレミアムが剥落し、一時的に2〜3%急落する場面も見られました。しかし、依然としてトランプ政権の強硬姿勢やホルムズ海峡の緊張といった火種が燻っており、価格を5,200ドル方向へと押し戻す強い圧力が働いています。
2025年からの金相場の年間の騰落率は65%を超え、これは1970年代のオイルショック以来の急騰となります。

2. 強気相場を牽引する複合的要因

金価格を5,000ドルの大台へと押し上げた背景には、単なる需給バランスを超えた構造的なパラダイムシフトが存在します。

2-1. 金融政策の転換と実質金利の「無力化」

金は利息を産まない資産であるため、従来は金利上昇局面で売られ、低下局面で買われるのが鉄則でした。しかし2026年現在、市場は年内合計75ベーシスポイント(0.75%)の追加利下げを織り込んでおり、機会費用の減少が金の優位性を支えています。特筆すべきは、本来なら金価格を抑制するはずの高実質金利下にあっても、通貨制度そのものへの不安が勝り、金が買われ続けるという「常識外」の相場展開が常態化している点です。

2-2. 米国財政への不信とドルの信頼揺動

米国の政府債務が57兆ドル規模に達し、財政赤字の拡大に歯止めがかからない現実は、基軸通貨ドルの信頼を根底から揺るがしています。さらに、経済制裁によるドルの「武器化」は、他国に「政治的リスクのない中立資産」としての金の価値を再認識させました。発行元が存在せず、デフォルトのリスクがない「無国籍資産」としての特性が、ドルの受け皿として最大限に評価されています。

2-3. 地政学リスクの常態化

かつての地政学リスクは価格高騰を招くものでしたが、現在は地政学的リスクが常駐し、中東情勢やウクライナを巡る緊張は、短期的解決を望めない「構造的な対立」として定着しました。投資家は一時的な避難ではなく、ポートフォリオの一定割合を恒常的に金で維持する「防御的保有」へとシフトしています。

市場は和平の進展に敏感に反応し、乱高下を繰り返していますが、根本的な不信感が払拭されない限り、下値は堅く、リスクプレミアムが維持されています。「金は上がる」という強固なコンセンサスが、空前の規模の資金流入を招いています。2025年の世界全体での流入は801トンを記録し、個人から機関投資家まで広範な層が市場に参加しています。連日の最高値更新を目前に、「金を持たないこと自体が最大のリスク」と捉える心理が働き、さらなる資金を呼び込む自己成就的な上昇サイクルが形成されています。

3. 通貨・産業・供給構造の変動

2026年における金の急騰は、一時的な需給の歪みではなく、通貨・産業・供給という三つのレイヤーにおける地盤変化が同期した結果と言えます。

3-1. ドルの「武器化」に対する中央銀行の防衛的買入

2022年のロシア外貨準備凍結という歴史的転換点以降、世界の中央銀行による金の扱いは劇的に変化しました。米国債の保有が地政学的対立において「人質」となるリスクが顕在化したことで、中央銀行は「誰の負債でもない」金へのシフトを強めています。
また、JPモルガンの分析によれば、新興国を中心とする中央銀行は価格の高低にかかわらず、「外貨準備に占める金の比率」を達成するために機械的な買い支えを継続しており、これが価格の下値を強固にしています。

3-2. AI・先端インフラ需要の不可逆性

金はもはや富の象徴に留まらず、AI革命を物理的に支える「戦略的先端素材」としての地位を確立しました。生成AI向けチップの高性能化に伴い、高帯域幅メモリ(HBM)や先端パッケージングにおける金の代替不可能な電気伝導性と耐食性が、実需面での強力な下支えとなっています。宇宙開発(低軌道衛星)やEVなど、故障が許されない極限環境での需要が増加しており、産業用金需要は経済サイクルに左右されにくい「硬直的な需要」へと変質しています。

3-3. 消費行動の変容

世界最大の消費地であるアジアにおいて、金に対する社会心理は「装飾」から「通貨防衛」へと決定的にシフトしました。インドや中国の消費者は、工賃によって目減りするジュエリーを避け、資産価値がダイレクトに反映される高純度の地金を強く好むようになっています。自国通貨のボラティリティに対する防衛策として、金は「最後の購買力維持手段」と見なされています。

3-4. 供給側の物理的・構造的な限界

強固な需要の一方で、供給側には「非弾力的」な物理的制約が立ちはだかっています。
高品位な既存鉱山は枯渇傾向にあり、新規開発から生産開始までには10〜15年を要するため、構造的な供給不足が続いています。通常、価格高騰はリサイクル供給を促しますが、現在は「さらなる高値」への期待から供給が細っています。

4. 資産としての金の価値

2026年2月現在、金は単なる商品という枠組みを脱却し、世界の金融・社会システムにおける中心となる資産としての地位を確立しました。その本質的価値を以下の4つの視点で総括します。

4-1. 「誰の負債でもない」という究極の信頼性

債券や預金は「発行者」の信用に紐付いた「負債」ですが、金はそれ自体が価値を持つ「実物資産」です。米国債の信用力が財政赤字や政治的要因によって相対的に低下する中で、カウンターパーティ・リスクを持たない金の特性は、利子を産まないというデメリットを凌駕する利点として再評価されています。

4-2. 戦略的インフラ資源としての物理的価値

AI、半導体、航空宇宙、EVといった次世代の基幹産業において、金は代替不可能な「工業用インフラ資源」となっています。需要が技術革新に直結しているため、単なる投機対象ではなく、文明維持に不可欠な戦略物資としての価値が相場の下値を支えています。

4-3. 社会的価値の変容:装飾から「生存」のための防衛へ

アジア諸国で見られる宝飾品から地金への嗜好の変化は、金の価値が「装飾品」から「購買力維持」へと決定的に移行したことを示しています。法定通貨への不信が深まる中、金は個人レベルでの「経済的生存」を担保する唯一の手段として強く支持されています。

4-4. システム不信の総和としての価格

1トロイオンス=5,000ドルという価格は、既存の金融秩序に対する世界的な「システム不信の総和」と言い換えることができます。投資家にとって金を持つことは、単なるキャピタルゲインの追求に留まらず、金融システムという巨大な船が沈没しかけた際の「救命ボート」を確保する実存的な行為となっています。

5. 主要金融機関による2026年の価格予想

多くの著名な銀行が、従来の予想を大幅に引き上げ、5,000ドルの大台を超えた後の新たなターゲットを設定しています。

  • J.P.モルガン: 2026年末までに6,300ドルを予測しています。さらに、民間投資家のポートフォリオ配分が増加するシナリオ(現在の約3%から4.6%への上昇)では、2030年までに8,000ドルに達する可能性があるとしています。
  • バンク・オブ・アメリカ: 2026年春までに6,000ドルという最も強気な短期ターゲットを掲げています。これは過去の強気相場(平均43ヶ月で約300%の上昇)という歴史的パターンに基づいた分析です。
  • UBS: 2026年中に6,200ドルに達すると予測しており、地政学的リスクが深刻化した場合には7,200ドルという強気シナリオも想定しています。
  • ドイツ銀行・ソシエテ・ジェネラル・ウェルズ・ファーゴ: いずれも2026年末のターゲットを6,000ドル〜6,300ドルのレンジに設定しており、現在の強気トレンドが継続する場合、これらの数字は「控えめな見積もり」になる可能性があると警告しています。
  • ゴールドマン・サックス: 2026年末までに5,400ドルを基本シナリオとしていますが、民間セクターの分散投資が加速すれば、さらなる上振れリスクがあると指摘しています。

 

6. 市場心理の現在:危うい均衡とモメンタム

一方で現在の市場心理は、強気と弱気が表裏一体となった危うい均衡状態にあります。
市場では「ドル信認が回復しない限り、金は無限に上がる」という意見が支配的です。専門家の意見が「強気」一色に染まるコンセンサスの過密状態は、市場の多様性を失わせています。

反対意見の消滅は、逆説的に、わずかな「平和の兆し」や「ドルの反転」といった予想外の材料を受けて、10〜20%規模の急激な調整(フラッシュ・クラッシュ)を招きかねない脆さを内包しています。現状の相場は、上昇それ自体がさらなる買いを呼ぶ性質を強めており、ファンダメンタルズを超えた熱狂が価格を押し上げています。

1980年相場の再来か?

1980年にドル建て金相場は1979年初頭の200ドル強から800ドルを超える急騰となりましたが、買い一巡後は急落しました。2025年以降のドル建てNY金価格の推移は、1979年の歴史的な大相場で見られた「上昇→一時的な調整→急騰」というパターンが高い精度で再現されています。
1979年から1980年にかけては、約1年間で価格が3倍以上になるという、爆発的な上昇を見せました。一方、2025年以降のデータは約2倍の上昇に留まっており、上昇率は1979年よりも緩やかです。これは、現在の相場は、1979年の歴史的な上昇をマイルドにした形で再現しているといえ、トレンドは似ていますが現代の市場の方が変動が抑制され、着実な上昇局面を形成していると分析できます。

ただ、このまま1979年のパターンを追随する場合、一度大きな調整が入る可能性(1979年時:-26%)も歴史的には示唆されおり、今後の動向には注意が必要となります。仮にNY金相場が2026年1月29日の史上最高値5626.8ドルから26%下落した場合、ドル建て金は4164ドル。日本の円建て金価格に当てはめると同月29日高値29,804円/gから22,055円/gまで下落することになります。(2月27日現在のunbanked株式会社の金参考価格は28,723円/g)

 


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