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2025年第4四半期の金市場は、LBMA価格(PM)が平均4,135.2ドル(前年同期比55%増)という歴史的水準へ到達した 。需要面では投資部門、特に金ETFが前年同期比756%増と爆発的に伸長し、価格上昇がさらなる投資を呼ぶ展開となりました。この記事では、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が2026年1月に公表した最新の「Gold Demand Trends(金需要報告)」に基づいて、2025年末の金需要が、価格上昇により宝飾需要が減少しましたが、投資需要の増加がそれを補った流れを説明します。
2025年第4四半期金市場:金価格は歴史的高値を更新し4,000ドルを突破
2025年第4四半期の金市場は、LBMA価格(PM)が1オンスあたり平均4,135.2ドルと前年同期比55%増という大幅な上昇を示し、歴史的な高値を更新しました。地政学的リスクの上昇や米ドルの信認低下を背景に投資需要が爆発し、四半期需要は過去最高の1,303トンに到達 。宝飾品が「身に付けられる資産」へと変容し、中央銀行の戦略的な買い増しも継続するなど、金は「安全資産」としての地位を強めています。
1.部門別の動向
2025年第4四半期の金需要は、四半期ベースで過去最高の1,302.8トンに達しました 。投資需要の増加が
1-1. 投資需要の増大
2025年第4四半期は投資部門が市場の牽引役となり、需要規模と価値の両面で前年を大きく上回りました。
Q4単期の投資需要は595.0トンとなり、前年同期(344.8トン)比で73%の伸長を示しました 。そのうち、地金・コイン等の小口投資の合計は前年同期比30%増の420.5トン。また、金額ベースでは、2025年の金需要は前年比45%増の5,550億ドルに達し、そのうち投資需要の価値は前年から2倍以上となる2,400億ドルを記録しています。
1-2. 金ETF:資金流入の加速
2025年の金ETF保有量は、長期間の流出傾向から一転して過去最高水準に増加しました。
2025年通年で801.2トンの純増を記録しました(前年は2.9トンの流出) 。これは統計史上、2020年に次ぐ2番目の規模となります。また、Q4の流入量は174.6トンに達し、前年同期の20.4トンと比較して約8.5倍(756%増)の規模となりました。
1‐3. 投資需要の増加要因
投資需要を押し上げたのは、経済的・政治的な先行き不透明感と、価格推移に伴う投資行動の変化があります。
地政学リスクの上昇や、米ドルの先行き不安、11月に開始された米FRBパウエル議長に対する刑事捜査などが、金への逃避を促しました。また、価格が上昇する過程でさらなる流入が加速し、10月の一時的な価格調整も「押し目買い」の機会として機能しました。
また、中国やインドでは、工賃の高い宝飾品購入から、より資産価値の高い低マージンの投資商品へ資金を移行させる構造的な変化が見られました。
【投資需要 比較一覧表】
| 指標(第4四半期比較) | 2024年Q4 | 2025年Q4 | 前年同期比 (y/y) |
| 投資需要合計 | 344.8トン | 595.0トン | +73% |
| 地金・コイン合計 | 324.4トン | 420.5トン | +30% |
| 金ETFおよび類似商品 | 20.4トン | 174.6トン | +756% |
| LBMA金価格 (Q4平均) | 2,663.4ドル/oz | 4,135.2ドル/oz | +55% |
2. 宝飾需要の数量から価値への転換
金価格の高騰により、数量ベースの金需要は前年同期比19%減の441.5トンとなり、四半期ベースでは過去最低水準に落ち込みました。しかし、数量は減少したものの、消費者の金に対する支出総額(価値ベース)では過去最高を更新しました。
中国では小口投資の需要が史上初めて宝飾品需要を上回りました 。また、「装飾」よりも「資産価値」を重視し、デザイン料が低く金含有量が高い製品(プレーンなチェーンなど)を選ぶ傾向が世界的に強まっています。
これは、宝飾品需要が単なる装飾目的から「身に付けられる投資対象(アセット・ジュエリー)」として根本的に再定義され、消費者の購買行動が投資判断の要素を強く含むようになったことを示しています。この変化により、価格上昇局面においても宝飾品への支出総額が維持される現象が生じ、金製品が伝統的な消費財から準金融資産へと性格を変化させています。
3. 各国中央銀行の動向
2025年第4四半期の各国中央銀行による純購入量はQ4の純購入量は230.3トン(前年同期比37%減)となりました。
ポーランド国立銀行はQ4だけで35トンを購入し、年間102トンの購入で世界最大の買い手となりました 。また、カザフスタンやブラジル、トルコなども継続的に備蓄を強化しています 。これは「脱ドル化」と安全保障リスクへの備えという明確な戦略に基づいています 。
また、高値局面でも四半期200トン超の買い越しを維持したことで金価格の強力な下値支持として機能し、中央銀行の「高値でも買い続ける」姿勢がETF流入や個人投資家の強気心理を後押ししました。
【各国中央銀行の動向 比較一覧表】
| 指標 | 2024年Q4 | 2025年Q4 | 前年同期比 (y/y) |
| 中央銀行による純購入量 | 366.6トン | 230.3トン | -37% |
| 金価格 (LBMA平均) | $2,663.4/oz | $4,135.2/oz | +55% |
4.供給の動向
2025年の金価格(LBMA年間平均)は前年比44%上昇し、Q4平均では前年同期比55%増を記録しましたが、供給全体の伸びは限られました。2025年通年での総供給量は5,002.3トン(前年比1.0%増)と、過去最高を更新したものの、価格上昇率に対して極めて緩慢な増加にとどまりました 。Q4単体の供給量は1,302.8トン(前年同期比1.0%増)と、需要の急増を供給が追いかけられない構造となっています 。
価格急騰局面では通常リサイクル(売却)が増えますが、Q4のリサイクル供給は366.4トン(前年同期比2.0%増)と留まりました。通常、価格が上がれば売却(リサイクル)が増えますが、今回は「さらなる値上がり期待」から売却を控える動きが目立ちました 。この現象は単なる投機的な値上がり期待を超えて、金に対する長期的な価値保存手段としての信頼が深く根付いていることを示しており、供給サイドからの価格抑制機能が構造的に弱体化していることが示されました。
また、インド等では売却の代わりに「ゴールドローン(担保融資)」を利用する動きが広まり、現物市場への放出が抑制されました 。
【供給一覧】
| 項目 | 2024年Q4(トン) | 2025年Q4(トン) | 前年同期比 (y/y) | 2025年通年比 |
| 供給合計 | 1,286.7 | 1,302.8 | +1% | +1% |
| 鉱山生産 | 947.1 | 957.7 | +1% | +1% |
| リサイクル金 | 357.7 | 366.4 | +2% | +3% |
| 正味生産者ヘッジ | -18.2 | -21.3 | — | — |
| LBMA金価格 (平均) | $2,663.4/oz | $4,135.2/oz | +55% | +44% |
2025年の供給サイドは、価格高騰という強力な誘因がありながら、物理的な生産限界と保有者の心理的バイアス(売り控え)により、需要の増加ペースに追随できていないことが数値上裏付けられています。
補講:ジェローム・パウエル議長への刑事捜査
市場に決定的な衝撃を与えたのは、連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長に対する刑事捜査の開始でした。連邦検察当局は、FRB本部の25億ドルに及ぶ改修プロジェクトに関連して、パウエル議長が議会で虚偽の証言を行った疑いで捜査を進めています。ドナルド・トランプ大統領はこの捜査を支持し、パウエル議長の「無能」や「背任」を公然と批判しました。
パウエル議長はこの捜査を、利下げを加速させるための「政治的圧力」であると反論したが、中央銀行の独立性が根本から揺らぐ事態に、投資家はドルの価値に疑問を抱き、非政治的な資産である金への資金逃避を加速させました。
まとめ
2025年第4四半期の金市場は、LBMA金価格が1オンスあたり平均4,135.2ドル(前年同期比55%増)と急騰する中で、年間総需要が史上初めて5,000トンを突破する歴史的な締めくくりとなりました。
本四半期の最大の特徴は、金に対する世界的な意識が「装飾品」から「戦略的投資資産」へと完全に転換した点にあります。価格高騰により宝飾品の購入数量は減少したものの、金ETFへの流入は前年同期比756%増という爆発的な伸びを見せ、地金・コイン需要も12年ぶりの高水準に達しました。
また、中央銀行による積極的な買い増しや、インドでのゴールドローンの急増、さらには米FRB議長への刑事捜査といった制度的リスクが重なったことも金価格の押し上げ要因となりました。
金価格の上昇は、一時的な需給の歪みや投機的なバブル現象ではなく、米ドル基軸通貨体制への根深い不信、中央銀行政策に対する懐疑、そして伝統的な金融システム全体への信頼失墜を背景とした、投資家の資産防衛姿勢の強まりを示したものと考えられます。
【2024年、2025年第4四半期 比較一覧表】
| 項目 | 2024年Q4(トン) | 2025年Q4(トン) | 前年同期比 (y/y) |
| 供給合計 | 1,286.7 | 1,302.8 | +1% |
| 鉱山生産 | 947.1 | 957.7 | +1% |
| 正味生産者ヘッジ | -18.2 | -21.3$ | — |
| リサイクル金 | 357.7 | 366.4$ | +2% |
| 需要合計 | 1,286.7 | 1,302.8$ | +1% |
| 宝飾品消費 | 547.9 | 441.5$ | -19% |
| テクノロジー | 82.8 | 82.1$ | -1% |
| 投資需要 | 344.8 | 595.0$ | +73% |
| 地金・コイン合計 | 324.4 | 420.5$ | +30% |
| 金ETFおよび類似商品 | 20.4 | 174.6$ | +756% |
| 中央銀行およびその他機関 | 366.6 | 230.3$ | -37% |
| $OTC$(相対取引)およびその他 | -31.8 | -42.5 | — |
| $LBMA$ 金価格 ($US\$/oz$) | 2,663.4 | 4,135.2 | +55% |