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金の供給は、鉱山生産、生産者ヘッジ、リサイクル金の三つの要素から成り立っています。
- 鉱山生産 : 鉱山で採掘され、精錬された金地金のことで、「新産金」とも呼ばれます。
- 生産者ヘッジ:金の生産者が将来の価格変動リスクを抑えるため先渡し取引(フォワード)や先物取引(フューチャーズ)などを利用した売り契約のことです。
- リサイクル金:すでに市場に出回った金が回収され、再度精錬されたもので、「再生金」とも呼ばれます。
本稿では、これらの金の供給源について説明します。
1.世界の金供給
世界の金鉱山会社が加盟する業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC:World Gold Council)が発表した2024年度の金の需給報告(Gold Demand Trends: Full Year 2024)によると、2024年の金供給量は4,974.5トンとなり、過去最大を記録しました。これは、金価格の上昇に伴いリサイクル金の供給が増加したことが主な要因です。
※2024年の金の供給量は2024年12月時点の推定値であるため、今後の予告なしに修正される場合があります。
1-1.鉱山生産
2024年の年間金鉱山生産量は前年比17トン増の3,661.2トンとなり、総供給量の約7割強を占めました。
主要な生産国は、生産量の多い順に中国、ロシア、オーストラリア、カナダ、アメリカとなっており、金は世界各国で産出されています。一般的に金価格が上昇すると鉱山会社の利益も増加すると考えられていますが、ここ数年は人件費や電力価格の上昇による採掘コストの増加が鉱山会社の経営を圧迫しており、鉱山生産量の伸びは抑えられました。
1-2.生産者ヘッジ
生産者ヘッジとは、鉱山会社が金を採掘する前に、販売価格を固定するために行う取引です。先渡し取引などを通じて、生産予定の金地金の売却契約を事前に結ぶことで、売却価格を固定させ、将来の価格下落リスクを軽減します。2023年は金価格下落への警戒感から鉱山会社がヘッジを増やしていましたが、2024年は逆に差し引き56.8トンのヘッジが解除されていました。
鉱山会社がヘッジを行うと、将来の生産量が市場に早期に供給されるため、短期的には金の供給が増加し、金価格が下落する可能性が高まります。逆に、鉱山会社がヘッジを解除(デヘッジ)すると市場に供給される金が減少するため、市場価格を押し上げる要因となります。
1-3.リサイクル金
2024年のリサイクル金は前年比約10%増の1,370.0トンと大幅に増加しました。
リサイクル金は、市場に出回った金を回収し、再利用された量を示し、総供給量の3割弱を占めます。以前はスクラップ金と言われ、売却された宝飾品からの再加工品が主でしたが、世界的に資源の再活用(リユース)が推奨されるなか、電子機器などからの回収や精錬された再生金を含む広い概念を示すようになっています。
リサイクル金の供給が増えると、金価格が下落する傾向があります。逆に、需要が供給を上回る場合は、金価格が上昇することが一般的ですが、金価格が上昇するとリサイクルのインセンティブが高まり供給が増加する傾向があり、リサイクル供給の増加は、金市場の需給バランスを調整し、価格の急騰を抑える効果があります。
2.金の主要生産国
ランク | 国名 | 鉱山生産(トン) | 割合(%) |
---|---|---|---|
1. | 中国 | 380 | 11.5% |
2. | ロシア | 310 | 9.4% |
3. | オーストラリア | 290 | 8.8% |
4. | カナダ | 200 | 6.1% |
5. | アメリカ | 160 | 4.8% |
世界合計(四捨五入) | 3,300 |
出典:アメリカ地質調査所(USGS) Mineral Commodity Summaries 2025
※2024年の金の供給量は2024年12月時点の推定値であるため、今後の予告なしに修正される場合があります。
2-1.中国
中国は世界最大の金生産国であり、山東省、甘粛省、内モンゴル自治区などで主に採掘されています。特に山東省の三山島金鉱は、最新の技術を用いた効率的な採掘が行われ、生産量を増やしています。アメリカ地質調査所(USGS)によると、2024年の中国の金生産高は380トンと推定されており、世界の鉱山生産高の約1割を占めます。
2-2.ロシア
ロシアは世界第2位の金生産国となり、2024年の鉱山生産高は310トンが見込まれています。世界有数の資源国のひとつで、金の埋蔵量は約12,000トンと推計されています。ロシアは2022年以降、金の生産量に関する詳細データを公表していません。ウクライナへの侵攻後、経済制裁により国際市場への流通が制限される中で、同国はBRICS諸国とアジア内で代替市場を探索するようになりました。
2-3.オーストラリア
オーストラリアは世界第3位の金生産国であり、2024年の鉱山生産高は290トンが見込まれています。
世界有数の資源国のひとつで、金の埋蔵量は、ロシアと同じく、約12,000トンと推計されています。オーストラリアでは、最先端の物理探査技術と採掘技術が導入され、効率的な金の採掘が行われています。これにより、採掘コストを抑えつつ、高い生産性を維持しています。
2-4.カナダ
カナダは世界第4位の金生産国となり、2024年の鉱山生産高は200トンが見込まれています。
主にオンタリオ州とケベック州で採掘され、両州の鉱山生産高は、カナダ全体の約70%を占めます。地下鉱山や露天掘りの技術が用いられ、環境への配慮も進められています。最近では、持続可能な採掘方法やクリーンエネルギーの導入が進んでいます。
2-5.アメリカ
アメリカは世界第5位金生産国となり、2024年の鉱山生産高は160トンが見込まれています。
主にネバダ州で採掘され、同州の鉱山生産高は国内生産の約70%を占めます。ただ、同州の主要鉱山で金鉱石の品位が低下しており、生産高は減少傾向にあります。
3.地上在庫と都市鉱山
3-1.金の地上在庫
WGCが2025年2月11日に発表した最新統計によると、2024年末時点の金の地上在庫は21万6,265.4トン。2024年は各国中央銀行の金購入や個人投資家の私的保有による退蔵が増加しました。
金は食物や石油のように消費されてなくなるものではないため、過去に採掘されたほぼすべての金が何らかの形で存在しており、再精錬することでリサイクルすることができます。これまで金が採掘された総量はオリンピックプール約4.5杯分に相当します。
💡金の地上在庫はオリンピックプール何杯分?
オリンピックプールの標準的なサイズは、長さ50メートル、幅25メートル、深さ2メートルです。
これを基に、オリンピックプールの容積を計算すると2500m³になります。
容積=長さ×幅×深さ=50m×25m×2m=2500m³
金の密度は約19,320 kg/m³であるため、216,265トンの金の体積は約11,202m³になります。
体積=質量/密度=(216,265,000kg)÷(19,320kg/m³)≒11,202m³
従って、金の体積をオリンピックプールの容積で割ると
金の体積/オリンピックプールの容積=11,202m³÷2,500m³≒4.48
金の地上在庫216,265トンは、オリンピックプール約4.5杯分に相当します。
3-2 日本の都市鉱山とリサイクル
都市から廃品を回収して製錬する流れは鉱山に見立てられ、都市鉱山と呼ばれます。
リサイクル金は主に、宝飾品などを再加工して供給されますが、近年は都市の廃製品などからレアアースや貴金属などを取り出して再精錬して使用するケースも増えています。
国立研究開発法人物質・材料研究機構によると、日本の都市鉱山における金の埋蔵量は世界の埋蔵量の約16%に相当する約6,800トンと推定されています。また、自然の鉱山から採掘される金は、鉱石1トン辺り約5グラムですが、都市鉱山では、携帯電話1トン(約1万台)辺り約280グラムの金が抽出できることが示されており、自然の鉱山に比べてはるかに効率的です。ただ、回収コストの高さなどに課題があり、商業的な経済合理性に乏しいとの指摘もあります。
4.まとめ
金価格の高騰を受け、金のリサイクル量が増えたことで、2024年の金供給は増加しました。また、生産者ヘッジの解消(デヘッジ)の増加は、鉱山会社が金価格の上昇が継続する又は現在の価格から大きく下がらないと判断していることを意味します。
金価格の上昇によるリサイクル金の供給を増やし、価格の下落圧力を強めますが、投資需要の増加がこれを吸収する形となっています。今後、世界的に循環経済への取組が進展するなかで、リサイクル金の供給割合が増加することも十分考えられます。
直近5年間の金需給推移表
(単位:トン) | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|
供給 | |||||
鉱山生産高 | 3,484.0 | 3,572.8 | 3,631.7 | 3,644.1 | 3,661.2 |
生産者ヘッジ | -36.6 | -5.4 | -12.3 | 67.4 | -56.8 |
リサイクル | 1,293.1 | 1,135.8 | 1,136.3 | 1,234.4 | 1,370.0 |
総供給 | 4,740.5 | 4,703.2 | 4,755.7 | 4,945.9 | 4,974.5 |
需要 | |||||
宝飾需要 | 1,323.7 | 2,230.8 | 2,195.3 | 2,191.0 | 2,003.5 |
宝飾加工 | 1,398.0 | 2,148.1 | 2,087.8 | 2,110.6 | 1,877.1 |
宝飾退蔵 | -74.3 | 82.7 | 107.5 | 80.4 | 126.4 |
工業需要 | 309.0 | 337.2 | 314.8 | 305.2 | 326.1 |
電子機器 | 255.3 | 278.7 | 257.7 | 248.7 | 270.6 |
他工業用 | 41.9 | 47.1 | 46.8 | 47.1 | 46.5 |
歯科用途 | 11.9 | 11.4 | 10.3 | 9.4 | 8.9 |
投資需要 | 1,794.9 | 991.5 | 1,112.5 | 945.5 | 1,179.5 |
地金及び公的金貨 | 902.3 | 1,180.3 | 1,222.1 | 1,189.8 | 1,186.3 |
金地金 | 542.8 | 810.9 | 802.2 | 781.7 | 860.0 |
公的金貨 | 290.4 | 284.4 | 320.9 | 293.5 | 201.0 |
メダル及びイミテーション金貨 | 69.1 | 84.9 | 98.9 | 114.6 | 125.2 |
金ETF及び類似商品 | 892.5 | -188.8 | -109.5 | -244.2 | -6.8 |
中央銀行及びその他購入 | 254.9 | 450.1 | 1,080.0 | 1,050.8 | 1,044.6 |
金需要 | 3,682.6 | 4,009.6 | 4,702.6 | 4,492.5 | 4,553.7 |
OTC及びその他 | 1,057.9 | 693.6 | 53.1 | 453.4 | 420.7 |
総需要量 | 4,740.5 | 4,703.2 | 4,755.7 | 4,945.9 | 4,974.5 |
LBMA金年平均価格 | 1,769.59 | 1,798.61 | 1,800.09 | 1,940.54 | 2,386.2 |
出典:World Gold Council”Gold Demand Trends Q4 and Full Year 2024″