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金価格は、需要と供給のバランスで決まります。
金(ゴールド)の需要は用途別に、加工需要(宝飾需要、工業需要)、投資需要(金地金、公式金貨、メダル/イミテーション金貨、ETF及び類似商品)、その他(中央銀行及びその他機関、OTC及びその他)に分類されます。
なお、イミテーション金貨とは、金メッキなどを施した金貨の模造品のことを指し、主に店舗ディスプレイや玩具、記念品等に用いられます。金メッキなどに含まれる実際に消費された金の量が集計されます。
主な供給源は鉱山生産とリサイクルとなりますが、今回は需要と供給のうち、需要に絞って説明させて頂きます。
1.世界の金需要
世界の金鉱山会社が加盟する業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC:World Gold Council)が発表した2024年度の金の需給報告(Gold Demand Trends: Full Year 2024)によると、取引所を介さない店頭取引(OTC)を含む2024年の金総需要は、通年での過去最高の4,974.5トン、総需要価値は3,820億ドルに達しました。
1-1.宝飾需要
金は主に宝飾品として使用され、総需要の約40%を占めます。
宝飾需要は金の需要の中で最も大きな割合を占め、特にインドや中国では伝統的に大きなウエイトを占めています。
2020年は新型コロナ感染症(COVID-19)の影響で需要が減少しましたが、2021年には反動で宝飾需要が大きく伸び、2023年には過去最高水準となる2,190.0トンに達しました。しかし、金価格が高騰したため全体的に減少し、2024年の宝飾需要は前年比187.4トン減の2,003.5トンとなりました。
1-2.工業需要
金の工業用途の使用は総需要の約7%となります。
伝導率の高さから電子機器に欠かせない素材であり、主に電子機器のプリント基板 (PCB) や半導体に用いられ、塗装メッキや歯科などにも用いられてます。AI関連のインフラ需要やハイエンドスマホの需要増加などを背景に、2024年の工業需要は前年比20.9トン増の326.1トンとなりました。
1-3.投資需要
投資需要は総需要の約24%となり、金地金、金貨、金ETF(上場投資信託)などが含まれます。
投資需要は金価格に大きな影響を与えますが、特に有事の際に「安全資産」としての需要が増加する傾向があります。
金ETFの金保有量は前年度比6.8トン減少。2024年4月に一時急減しましたが、米FRBの金利政策や地政学的リスクの高まりを背景とした買戻しが入り、減少幅を縮小。10月に過去最高値を更新した金価格が11月に下落した際に、投資家の買いが入った模様です。
また、昨年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、関税リスクを回避しようと金取引業者や金融機関が大量の金塊をニューヨーク商品取引所(COMEX)の保管庫に移送するなど、民間の金地金に対する需要の高まりから年末にかけて買いが増加し、2024年の投資需要は前年比234.0トン増の1,179.5トンとなりました。
1-4.中央銀行及びその他機関の需要
各国の中央銀行及びその他機関による公的金購入量は、総需要の約21%を占めます。
幅広い新興国の中央銀行が、外貨準備としての金の保有量を増やしており、近年その購入量は増加傾向にあり、高水準を維持しています。2024年の純購入量は前年比6トン減の1,044トンとなり、3年連続で1,000トンを上回りました。
1-5. OTC及びその他の需要
店頭取引(OTC)市場及びその他の金需要は、前年比32.7トン減の420.7トン。
OTC市場では、金の取引が非公開で行われるため、正確な需要量を把握するのは難しいですが、投資家による旺盛なOTCでの購入が金の需要を支えました。
2.主な金消費国の金需要
2-1. 中国
中国は世界最大の金消費国であり、特に宝飾品の需要が高い国です。中国では伝統的に金は富や繁栄、幸運の象徴とされ、婚礼の際の三金(指輪、耳飾り、首飾り)や春節(旧正月)の飾り物、贈り物として用いられます。しかし、最近の金価格の上昇や、中国人民銀行(中央銀行)による輸入規制等の影響により、2024年の中国本土の宝飾需要は前年度比24%減の479.3トンとなり、大幅に減少しました。
一方で、金地金などへの投資需要は増加し、投資需要は同20%増加の336.2トン。中国の通貨である人民元が対ドルで下落したことや不動産市場の不振や国債の利回り低下などにより、中国の投資家は価値の保存手段として金の購入を増やしました。
WGCは、中国人民銀行による金購入に関する発表が、投資家心理をさらに後押ししたと考えており、マクロ的な環境要因から2025年の投資需要は引き続き安定していると予想しています。ただ、株式など他の投資先が堅調に推移する場合は、投資需要が他の投資先に流れる可能性があると指摘しています。
2-2. インド
インドは世界第二位の金消費国で、特に宝飾需要が高く、家庭単位での金保有量は世界で最も高くなっています。同国では、金は純粋さや繁栄、幸運の象徴とされ、結婚式や宗教的な行事で重要な役割を果たします。金は持参金として花嫁に贈られることが一般的で、家族の地位を示す重要な要素となります。2024年のインドの宝飾需要は前年度比2%減の563.4トンとなる一方、地金や金貨への投資需要は同29%増の239.4トンとなりました。
2024年7月にインド政府が貴金属の関税率を15%から6%に引き下げたことで、金の需要は増加。11月の金輸入額は過去最高の148億ドルに達しました。同国政府は、地政学的な緊張の高まりで投資家は安全資産に向かっており、金にも目を向けていると分析しています。
WGCは、投資需要の増加が、7月の関税引き下げに対する投資家の反応の強さと、同国の堅調な経済成長の両方を示していると指摘。通常は、インドの主要な宗教的な行事のピークとなる、10月下旬から11月の間が金の購入シーズンですが、関税の引き下げが最近の金価格上昇のほとんどを実質的に相殺したため、投資家は時期を前倒した第3四半期(7~9月)後半に、金の宝飾品を購入したと指摘しています。そのため、現在は金価格の高騰により需要が抑制されているが、金の宝飾需要は、結婚式関連の購入により、1月中旬から徐々に回復する可能性があるとしています。
2-3.トルコ及び中東地域
トルコでは古代から金の取引が行われており、金は経済的な安定を象徴するものと見なされています。
2024年のトルコの宝飾需要は前年度比4%増の41.2トン、地金や金貨などへの投資需要は同25%減の112.2トン。トルコの投資需要の減少は、2023年の需要が突出していたことへの反動や、トルコ国内の金融市場の高金利により投資資金が預金口座やファンドなどに流れたためですが、それでも過去10年の平均約70トンを上回る水準となりました。
WGCは、インドの貴金属関税の引き下げにより、インド人観光客が海外ではでなく国内で金を購入したために、中東地域での宝飾需要が全体的に需要が減少し、特にアラブ首長国連邦(UAE)が影響を受けたと指摘しています。UAEはドバイを中心に、世界的に重要な金市場を形成し、「金の都市」として知られます。UAEでは金の購入に対して消費税(VAT)が免除されており、これが投資家や消費者を引き寄せますが、インド人にとっては、自国の関税引き下げにより魅力が相対的に後退したと考えられています。
3.まとめ
2024年は金価格が世界的に高騰したにも拘らず、金需要は過去最大の水準となりました。主に各国中央銀行による公的な金購入量や投資需要が堅調なことなどが要因です。また、個人の宝飾需要の減少が、投資需要の増加によって吸収されていることなども支援材料となりました。
WGCは、金融正常化に伴う米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まっていましたが、トランプ米大統領の関税政策を背景に米国のインフレ懸念が再燃しているため、米長期金利は一時的に下落したとしても、その後の相場の動きは波乱の展開となる可能性があるとの見方を示しています。
直近5年間の金需給推移表
(単位:トン) | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|
供給 | |||||
鉱山生産高 | 3,484.0 | 3,572.8 | 3,631.7 | 3,644.1 | 3,661.2 |
生産者ヘッジ | -36.6 | -5.4 | -12.3 | 67.4 | -56.8 |
リサイクル | 1,293.1 | 1,135.8 | 1,136.3 | 1,234.4 | 1,370.0 |
総供給 | 4,740.5 | 4,703.2 | 4,755.7 | 4,945.9 | 4,974.5 |
需要 | |||||
宝飾需要 | 1,323.7 | 2,230.8 | 2,195.3 | 2,191.0 | 2,003.5 |
宝飾加工 | 1,398.0 | 2,148.1 | 2,087.8 | 2,110.6 | 1,877.1 |
宝飾退蔵 | -74.3 | 82.7 | 107.5 | 80.4 | 126.4 |
工業需要 | 309.0 | 337.2 | 314.8 | 305.2 | 326.1 |
電子機器 | 255.3 | 278.7 | 257.7 | 248.7 | 270.6 |
他工業用 | 41.9 | 47.1 | 46.8 | 47.1 | 46.5 |
歯科用途 | 11.9 | 11.4 | 10.3 | 9.4 | 8.9 |
投資需要 | 1,794.9 | 991.5 | 1,112.5 | 945.5 | 1,179.5 |
地金及び公的金貨 | 902.3 | 1,180.3 | 1,222.1 | 1,189.8 | 1,186.3 |
金地金 | 542.8 | 810.9 | 802.2 | 781.7 | 860.0 |
公的金貨 | 290.4 | 284.4 | 320.9 | 293.5 | 201.0 |
メダル及びイミテーション金貨 | 69.1 | 84.9 | 98.9 | 114.6 | 125.2 |
金ETF及び類似商品 | 892.5 | -188.8 | -109.5 | -244.2 | -6.8 |
中央銀行及びその他購入 | 254.9 | 450.1 | 1,080.0 | 1,050.8 | 1,044.6 |
金需要 | 3,682.6 | 4,009.6 | 4,702.6 | 4,492.5 | 4,553.7 |
OTC及びその他 | 1,057.9 | 693.6 | 53.1 | 453.4 | 420.7 |
総需要量 | 4,740.5 | 4,703.2 | 4,755.7 | 4,945.9 | 4,974.5 |
LBMA金年平均価格 | 1,769.59 | 1,798.61 | 1,800.09 | 1,940.54 | 2,386.2 |
出典:World Gold Council”Gold Demand Trends Q4 and Full Year 2024″