• No.0009
金相場の経験則を再検証①:金と米ドルは逆相関?

金相場と米ドルの相関関係は、一般的に「逆相関」として知られます。
これは、米ドルの価値が上昇すると金の価格が下がり、逆に米ドルの価値が下がると金の価格が上昇する傾向があることを意味します。金価格が主に米ドル建てで取引されるため、米ドルの動きは金価格に直接的な影響を与えます。
しかし、金相場と米ドルの関係は常に逆相関であるわけではありません。特定の市場状況や経済的要因によっては、両者が同じ方向に動くこともあります。以下、具体的な例を交えて解説します。


1.金相場と米ドルの逆相関のメカニズム

1-1.金と米ドルの逆相関とは

他国の通貨に対して米ドルの価値が上昇すると、米ドル以外の通貨が弱くなり、米ドル以外の通貨に対して金価格が相対的に高くなります。このため、米ドル以外の通貨で取引を行う国の投資家の金需要が減少するため、金価格が下がる傾向があります。
逆に、米ドルの価値が下がると、米ドル以外の通貨が強くなり、米ドル以外の通貨に対して金価格が相対的に下落します。このため、米ドル以外の通貨で取引を行う場合、その国の投資家の金需要が増加するため、金価格が上がる傾向があります。
このように、米ドルが上昇すると金価格が下落する、または米ドルが下落すると金価格が上昇するという風に、お互いの価格が反対に動く関係を「逆相関」と言います。

1-2.金価格とドル指数の推移

金価格と米ドルが本当に「逆相関」と言えるのか、インターコンチネンタル取引所(ICE)が公表している、6通貨で構成されるドル指数 (USDX)とワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が発表している、ドル建てスポット金相場の比較で検証します。
図1をみると、2002年からのドル指数の下落時に金相場が上昇し、2014年にドル指数が回復するにつれて金相場は高値から下落し、2020年のコロナショックの際には、ドル指数が急落するのに反して、金相場が急騰する「逆相関」の関係を読み取れるかと思います。
しかし一方で、ロシアがウクライナに侵攻した2022年には、ドル指数と金相場が共に上昇する「正の相関」が示された後、金相場は急騰する一方でドル指数は横ばいを示しています。では、既に金相場とドル指数の「逆相関」関係は崩れているのでしょうか?

図1:2000年以降の金相場とドル指数

2000年以降の金相場とドル指数

1-3.金と米ドルの相関係数

相関係数は、2つの変数の間に、直接的な関係があるかどうかを計る統計上の数値です。
下の図2は、250日間の金相場とドル指数の動きの相関係数をグラフ化したものになります。
図でみると、2000年代に入ってからの金相場とドル指数は、概ね「逆相関」関係を保っていますが、金価格とドル指数が同じ方向に動く「正の相関」を示す時期もあることがわかります。
背景には、突発的な事件や金融危機、地政学的リスクの高まりなどに対する投資家の反応があります。

特に、ここ数年の変動は激しく、短期でみれば、逆相関の関係が崩れていると言える時期もあります。

図2:250日間の金価格とドル指数の相関係数の推移グラフ
250日間の金価格とドル指数の相関係数の推移グラフ
※過去のドル指数と金価格の関係を示していますが、将来の相場の予想を行うものではございません。

💡相関係数
絶対値が1に近いほど、数値の関係がある(相関がある)と解釈されます。
相関の強さの目安の絶対的な基準はありませんが、参考として下記の表のような見方があります。

相関係数の絶対値 相関の強さの目安
0.7~ 強い相関
0.4~0.7 中程度の相関
0.2~0.4 弱い相関
~0.2 ほとんど無相関

※相関係数がプラスであれば正の相関、マイナスであれば負の相関となります。

2.過去の主な事件や要因

2-1.金価格と米ドルが同方向に動いた事例

金相場とドル指数は、特定の事件や経済的要因などを材料とした投資家の反応により、両者が同時に同じ方向に動くことがあります。以下にその主な事例を挙げてみます。

  • ・アメリカ同時多発テロ事件(2001年9月)
     アメリカ同時多発テロ事件の発生直後、米ドルは売られ、金が買われる動きが見られました。しかし、その後、米ドルが持ち直す中で、各国の協調利下げが実施され、金も買われる結果となり、米ドルと金は共に上昇しました。この動きは、危機時における安全資産への需要の変化を反映しています。
  • ・米金利政策とインフレ懸念(2005年10月以降)
     米国の地区連銀総裁がインフレ懸念を表明する中で、金価格が上昇しました。また、米国市場との金利差拡大期待からアジア通貨安懸念が高まり、株式市場から資金が流出し、インフレヘッジとして金投資が増加しました。この状況は、金と米ドルが同時に上昇する要因となりました。
  • ・リーマン・ショックから欧州債務危機(2008年9月以降)
     リーマン・ショックは世界的な金融危機を引き起こし、投資家が安全資産として金と米ドルの両方を求めた結果、金価格と米ドルが同時に上昇する事態が発生しました。これは、危機時における安全資産への需要が高まったことを示しています。
  • ・米FRBによるQE3の縮小(2013年12月)
     米国FRBがQE3(量的緩和策)の縮小を決定した際、市場は大きな動揺を見せました。この決定は、金利の上昇期待を生み出し、金価格に影響を与えるとともに、米ドルも強含みました。QEの縮小は、投資家のリスク回避姿勢を強め、金と米ドルが同時に上昇する要因となりました。
  • ・COVID-19パンデミック(2020年)
     新型コロナウイルス感染症による経済不安から、投資家は金と米ドルの両方を求める傾向が強まりました。この時期、金と米ドルが同時に上昇することがあり、危機に対する避難先としての役割が強調されました。
  • ・ロシアによるウクライナ侵攻(2022年)
     地政学的リスクの高まりにより、投資家は金と米ドルの両方を安全資産として購入しました。特に、ウクライナ侵攻が始まった2022年2月には、金と米ドルが同時に価格が上昇しました。この動きは、地政学的緊張が市場に与える影響を示します。

2-2.要因分析

これら事例に共通する要因は、以下の通りです。

  • ・地政学的リスク
     戦争や紛争が発生すると、投資家のリスク回避のために、金と米ドルの両方が買われる傾向があります。
  • ・経済的不安
     金融危機や不況の際には、安全資産としての需要の高まりから、金と米ドルが同時に上昇することがあります。
  • ・金融政策の影響
     中央銀行の政策が金利や流動性に影響を与え、結果として金と米ドルが同時に上昇することがあります。

世界情勢が不安定な時は、投資家はリスク回避姿勢を強めます。特に、金融危機の際や地政学的リスクが強まる場合は、投資家が「安全資産」を求め、米国債や金地金を購入する傾向が強まるため、米ドルと金が同方向に動く機会が増えます。


3.まとめ

冒頭で述べた通り、他の通貨に対して米ドルの価値が上昇すると、米ドル以外の通貨に対して金価格は相対的に高くなり、需要が減少するため金価格が下がるのが逆相関のメカニズムであり、原則的には金相場とドル指数の逆相関は大きく崩れません。しかし、地政学的リスクや経済的な不安が高まった時や、中央銀行の政策などの要因により、金相場とドル相場が同じ方向に動き、逆相関が崩れることがあります。

これは、金や米ドルには元々の資産価値とは別に、投資対象としての付加価値があり、投資需要の高まりから独立してそれぞれの相場が動くことがあるためです。
現在は、経済的不安や地政学的リスクが高まる一方で、アメリカではインフレ再燃のリスクがあるなか、景気刺激のために米FRBが3会合続けて利下げに踏み切ったことで金も買われ、米ドル高と金相場の上昇が同時に進むという、通常とは異なる状況が生まれています。現在の金と米ドルの動きは、近年の世界情勢の不安定さを示していると言えるかもしれません。

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