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トランプ米政権復活で、どうなる?金価格!

第2次トランプ政権は2025年1月20日に発足した後、関税の引き上げ、暗号資産の推進、外交・安全保障政策の変更などを実施しました。金はインフレヘッジや安全資産としての役割を担うため、直接的あるいは間接的にこれら政策の影響を受けます。
本記事では、政策が金相場に影響を与える部分を整理し、今後の動向を考察します。
また、過去のトランプ政権が金相場へ与えた影響についても振り返ります。


1.関税政策とインフレ懸念

1-1. 関税の引き上げ政策

トランプ大統領は2月1日、メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税をかけ、中国には10%の追加関税を課す一連の大統領令に署名しました。ところがその後、メキシコとカナダへの関税実施を1カ月停止したことや、中国の報復関税は、第1次トランプ政権時代(2017年1月20日-2021年1月20日)と比べ規模が小さいため、貿易戦争に発展する可能性は低いとの見方から市場への影響は限定的となりました。

しかし、米商務省が2月5日発表した貿易統計によると、米国の貿易赤字は財(モノ)の取引で2024年に前年比14%増の1兆2,117億ドル(約185兆円)となり、過去最大を更新。トランプ米大統領は2月13日、貿易の相手国が特定の製品に高い関税を課している場合、相手国から輸入されるその製品に対する関税を同率に引き上げる措置をとる「相互関税」導入を政権に指示する措置に署名しており、今後の進展が注目されています。

1-2.インフレヘッジとしての金需要の増加

関税による輸入価格の上昇は、企業の操業コストの押し上げを通じ、商品価格の上昇として国民へ転嫁されるため、結果的にインフレ圧力を高めます。このため、投資家がインフレヘッジとして金を購入するケースが増えています。
金は歴史的に、貨幣の価値が下落する局面では「安全資産」として投資家に支持され、インフレが進行すると金への需要が増加します。

英紙フィナンシャル・タイムズからは、トランプ米大統領の関税政策への警戒から、ロンドンで貸し出された金塊がニューヨーク商品取引所(COMEX)の保管庫へ大量に移送されているとの報道がありました。
金塊の借り手は、通常、他の商業銀行や、精錬所、宝石商、工業メーカーなどですが、購入して保管するよりも、一時的に借り入れた方がコストが安くつくと考えているためです。昨年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、関税リスクを回避しようと、金取引業者や金融機関は、1月下旬までに393トンの金塊をCOMEXの保管庫に移送。民間の保管分を含めると、実際に米国に流入した金の量はさらに増えていると考えられています。


2.暗号資産政策とその影響

2-1. 暗号資産の国家戦略化

トランプ政権は、暗号資産に対する規制緩和と推進を政策目標として掲げています。
2025年1月23日に署名された大統領令では、ステーブルコインを含むデジタル資産の連邦規制の枠組みを策定し、「戦略的国家デジタル資産備蓄」の創設を評価することを目的としています。ビットコインなどのデジタル資産を国家備蓄として検討する動きは、従来の資産運用や安全資産としての金の位置付けに変化をもたらす可能性があります。

2-2. 暗号資産と金相場

暗号資産への政策支援が進む中、特に若年層やテクノロジーに敏感な投資家層が暗号資産に資金をシフトする可能性があるため、暗号資産が準備金として取り入れられるならば、短期的には金相場の弱材料になる可能性があります。ただ、暗号資産への統制が進むと、国家の負債ではないアナログな取引手段の存在が望まれた際に、最後の通貨として金塊が用いられる可能性が高いと考えられています。さらに、インフレヘッジや安全資産としての役割を維持するため、中長期的には、通貨価値を保存する代替資産としての需要に支えられ、デジタル資産と共存することになると予想されます。


3.外交政策とその影響

3-1. 地政学的緊張の増加

トランプ政権の外交政策は、しばしば地政学的緊張を伴います。
アメリカのルビオ国務長官は1月30日、メディアのインタビューの中で北朝鮮に触れ、イランとともに「ならずもの国家」と発言しました。北朝鮮外務省は2月3日、この発言を非難すると共に、アメリカの敵視政策を改めて確認したとして対立姿勢を強めました。また、敵対するイランに対しては、制裁措置の強化を含め最大限の圧力をかける方針を明確にしつつも、「核和平協定」を結びたいという考えを示しており、圧力を強めつつ対話を迫ってゆくとみられます。

今後の進展次第ですが、仮にイランや北朝鮮との交渉が難航すれば、地域全体の不安定性が高まり、投資家は安全資産としての金を選好し、金相場に上昇圧力がかかると予想されます。

3-2. 安全資産としての金需要の増加

ウクライナにおけるロシアの軍事行動や国際的な安全保障リスクも、金相場に大きな影響を与えると考えられます。
欧州市場では地政学的リスクが高まると、金が安全資産として再評価され、需要が増加する傾向が見られます。
トランプ米大統領はロシアに対し、ウクライナとの戦争を継続するならば高関税と追加制裁で対応すると警告。ウクライナに対しては、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を牽制しつつ、軍事支援を継続する条件としてレアアースなどを巡る合意を取りつけたい考えを示していますが、今後の交渉の行方が注目されます。


4.第1次トランプ政権時代の金相場

4-1. 過去の米中貿易摩擦が引き起こした不確実性

第1次トランプ政権時代(2017年1月20日-2021年1月20日)に起きた米中貿易摩擦と新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界全体に不透明感をもたらし、投資家のリスク回避姿勢を強め、「有事の金」としての金需要を高めました。ここでは、当時のトランプ政権時代と金相場の動きを振り返ります。

4-2 米中貿易摩擦の発端と金相場の反応

第1次トランプ政権(2017年1月20日-2021年1月20日)

  • 2018年3月:トランプ大統領が中国製品へ25%の追加関税を発表し、米中貿易摩擦が本格化しました。この発表を受けて、金融市場は不安定化し、金相場は上昇を始めます。
  • 2018年7月:アメリカが中国に対し、340億ドル相当の製品に25%の制裁関税を適用した際、金価格は急上昇しました。この時期、金価格は約1,250ドルから1,300ドルの範囲で推移していましたが、貿易摩擦の激化に伴い、金の需要が高まり、ドル建て価格は上昇しました。ただ、外国為替市場では円高ドル安が進行したため、国内金価格は軟調に推移しました。
  • 2018年12月:アルゼンチンでG20首脳会議が開かれた際に、トランプ大統領と習近平国家主席が直接対話を行い、米中貿易戦争は一時休戦となりました。
  • 2019年1月:米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、1月29日、30日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを行う可能性を示し、同年7月31日の米FOMCで、10年7カ月ぶりに政策金利を0.25%引き下げました。 利下げは金の魅力を高める要因となり、金価格は上昇しました。
  • 2019年5月:米中貿易摩擦が再燃。米中の貿易交渉が難航する中、金はインフレヘッジとしての需要が高まり、金価格は約6年ぶりの高値水準に上昇します。この時期、金価格は1,300ドルを超え、最終的には1,400ドルに迫る水準に達しました。
  • 2019年12月:トランプ大統領がウクライナの大統領との電話会談の中で、軍事支援を取り引き材料に、民主党の有力候補バイデン氏に関する情報を得ようとしたとされる、いわゆる「ウクライナ疑惑」について、弾劾裁判が行われ、米下院では弾劾訴追する決議案が可決されたが、上院は2020年2月に無罪としました。
  • 2020年1月15日、米中は第1段階の経済・貿易協定に合意。米中貿易摩擦の鎮静化の道筋が示されましたが、その後直ぐに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生しました。パンデミックに伴う渡航制限等によりサプライチェーンが寸断されたことや、経済の停滞を予防する目的での各国の経済刺激策や低金利政策が金の需要を押し上げ、ドル建て金価格は2020年8月に2,000ドルを超え、国内金価格(当社販売価格)も7,700円の歴史的高値を記録しました。
  • 2020年の米大統領選挙で現役のトランプ米大統領が敗北すると、翌2021年1月13日にトランプ氏の支持者らがアメリカ合衆国議事堂を襲撃しました(「2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件」)。1月20日に任期が切れたためトランプ氏は米大統領を退任しますが、反乱を扇動したとして弾劾裁判が行われました。トランプ氏の弾劾裁判が進行する中で政治的な不確実性が高まり、金は安全資産としての需要が続きました。投資家のリスク回避姿勢が強まる中、金価格は2021年初頭においても高値圏を維持しました。


5. 今後の展望とまとめ

トランプ米大統領の政策は予測可能性の低さが特徴とも言われ、将来の動向が読みにくいため、金市場では事前に関税に対する対策として先に金を移動させるなど、先回りの対応が進められていました。
ウクライナ情勢や米中の関税を巡る交渉の行方は読めませんが、トランプ政権が「アメリカ第一主義」を掲げる限り、相手国に不利を強いて交渉が難航する場面が増えると考えられます。

また、関税政策の影響については、大和総研の2024年12月の試算によると、「メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税をかけ、中国には10%の追加関税を課す場合、アメリカ経済への影響は最大でGDPを2.16%押し下げ、インフレ率(CPI上昇率)を1.56%ポイント押し上げる」とされています。今後も関税政策を推進するならば、投資家だけでなく各国中央銀行も政策の行方に警戒せざるを得ず、金相場は短期的な値動きだけではなく、資産の逃避先の「安全資産」としての需要から、長期的にも堅調に推移すると予想されます。

本記事では、トランプ政権の政策が金相場にどのような影響を与えるのかを、政策面・地政学リスク・経済環境の視点から整理しました。今後の動向についても、各政策の変化や国際情勢の動向に応じた柔軟な対応が極めて重要であると言えそうです。

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