• No.0022
金は世界第2の準備資産に:中央銀行が金を爆買いする理由とは?

2024年は中央銀行が金を1,000トン以上購入しました。これは過去10年の平均購入量の2倍、世界で1年間に生産される金(約3,500トン)の約30%にあたる、極めて大規模な買い付けです。各国中央銀行が保有する金の総量は36,000トンとなり、1965年の最高記録(38,000トン)に迫っています。この量は歴史的に見て3番目に多く、世界の地上金(約20万トン)の約18%を占めます。

また、金が資産として外貨準備に占める割合はユーロ(16%)を初めて上回り、20%に達しました。ECBは6月の報告書の中で、これはドルに次ぐ「第2の準備資産」としての金が制度的な復権を果たしたと指摘しています。今回はECBの年度報告「The international role of the euro」に基づき、現在の中央銀行の金保有が増加した背景と今後予想されている金価格の展開を解説します。


1. 金が「ドルに次ぐ第2の準備資産」に

2024年、国際金融市場において重要な構造変化が進行しました。中央銀行による金(ゴールド)の大規模購入が継続し、2024年には1,000トン超に達しました。これは10年平均(約450トン)の2倍以上となります。この購入量は世界年間金産出量(約3,500トン)の約30%を占める水準であり、金市場における国家の存在感が飛躍的に高まったことを示します。この結果、世界の中央銀行の金保有量は36,000トンとなり、1965年の最高記録38,000トンに接近しています。
また、金価格も急騰し、上昇率は前年比+30%と実質ベースで1979年のオイルショック時を超える歴史的な水準に達しています。

中銀純購入量(トン) 世界鉱山生産比 備考
2022 1,080.01 29.7% ロシア侵攻直後に急増
2023 1,050.81 28.8%
2024 1,085.96 29.6% 史上2番目の高水準
2025Q1 243.7 年換算約975トン

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この結果、2024年末の時点で、世界の公的外貨準備高(外貨+金)に占める金の市場価格ベースの比率は 20% に到達し、ユーロ(16%)を初めて上回りました。これに対して、ECBは、2024年時点で金が「ドルに次ぐ第2の準備資産」に昇格したと述べています。

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2. なぜ中央銀行は金を買うのか

ECBやWGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)によると、各国中銀が金を保有する理由は主に次の2つとされます。

  • 分散投資(約2/3)
  • 地政学的リスクに対するヘッジ(約2/5)

世界の中央銀行の3分の2が「分散投資」を目的として金を保有します。この戦略は特に金融市場の不確実性が高まる局面で重要性を増します。また、5分の2が「地政学的リスクに対するヘッジ」を目的としており、これは国際関係の緊張が高まる近年の傾向を反映しています。

金は以下の理由から国際社会で高い評価を得ています。

  1. 長期的な価値保存手段・インフレヘッジとしての実証された実績。数千年にわたり一貫して価値を維持してきた唯一の資産として、信頼性が確立されています。
  2. 危機時における価値の安定性。金融危機、経済危機、紛争などの市場混乱期において、他の資産クラスと比較して相対的に安定した価値を保持する特性があります。
  3. 効果的なポートフォリオ分散機能。株式や債券などの主要資産クラスとの相関性が低く、総合的なポートフォリオのリスク調整後リターンを最適化する可能性を提供します。

特に新興国中央銀行では「制裁リスク」や「国際通貨体制の変化への備え」としての金保有の動機が強いと指摘されます。これは既存の国際通貨システムへの依存度を低減し、自国の金融主権を強化したいという願望を反映しています。また、欧米諸国との関係が複雑化する中で、凍結されにくい資産として金の重要性が再認識されています。


3. 金を購入する中銀の地政学的な偏り

金保有の増加は、特定の国(トルコ、インド、中国、ロシアなど)に集中し、2021年末以降は600トン以上の金を購入しています。これは世界の年間産金量の約17%に相当し、これらの国だけで世界の中央銀行による金購入の半分以上を占めます。
特に、ロシアやベラルーシ、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタンといった西側諸国と地政学的に距離を置く国々で、金の外貨準備に占める保有比率が急増しています。ロシアでは制裁導入前から戦略的に金保有を増やし、過去10年間で保有量を3倍以上に拡大させました。
ECBは、金の保有増加と地政学的立場の相関関係が、複数の学術調査やECBの公式データ分析上でも明確に確認されていると指摘しました。統計的に有意な相関が示されており、特に西側との関係が悪化した国々ほど、金保有比率を積極的に高める傾向が強まるとしています。
ただ、現実的には、政治的に不安定な国では、リスクヘッジとして金準備を増やす傾向がある一方で、財政難から売却することもあります。金準備高は国の経済状況や政策に大きく影響され、政治的リスクが高いからといって必ずしも金準備高を増やすとは限らないことにご注意ください。

4.地政学を巡る金の新たな価格形成メカニズム

従来、金価格は米実質金利と逆相関関係を示してきましたが、2022年以降この相関関係が顕著に弱まっています。
2008年~2022年初頭までは金価格と米国実質金利の間に明確な負の相関(金価格はインフレや金利低下時に上昇する傾向)が観察されていましたが、2022年以降はこの相関関係が著しく低下しました。
ECBは、このパターン変化は、地政学的要因が金価格の主要な決定要因として台頭している証左であり、従来の金融政策よりも国際関係における緊張や世界秩序の再編が、現代の金価格形成においてより支配的な影響力を持つようになってきていることを示しているとしています。

またECBは、1999年以降のデータ分析によれば、各国の金保有シェアが顕著に増加した年の約半数は、当該国に対する金融制裁の発動時期と重なっており、これは制裁リスクと金購入行動の間に統計的に有意な関連性があることを示しています。この相関関係は多くの中央銀行が公式文書で明示的に認めているわけではありませんが、実証分析からは明確な関連性が確認され、「地政学」が金価格の主な変動要因に変化しているとしています。2022年に起きたロシアのウクライナ侵攻や米中貿易戦争にみるように、地政学的リスクの高まりや貿易政策による輸送コストの上昇は、現在のグローバル化した社会においては物価に与える影響が大きく、トランプ政権の関税政策を背景とした世界的なインフレ懸念が台頭し、投資家のインフレヘッジとしての金購入の増加も金価格を支えています。

5. 供給の限界と価格の弾力性:中長期の見通し

金の供給構造の歴史的分析によると、過去数十年の需要増加期においても、市場は比較的効率的に対応してきたと評価されます。これは主に鉱山生産の拡大、リサイクル金(スクラップ)の増加、地上在庫(above-ground stock)の効率的な市場流通によって実現してきました。しかし、 今後も中央銀行による前例のない規模での継続的な金購入が継続する場合、構造的に、供給側の拡大が価格上昇圧力に対応できず、長期的に価格が高止まりする可能性があります。特に鉱山開発の長期的な準備期間と採掘コストの上昇が、鉱山会社等の迅速な対応を制限していると指摘しています。
また、中央銀行の「非売却・長期保有」という姿勢と相まって、価格の下値が安定し上昇圧力が継続する市場構造が形成されつつあると指摘しています。


6. ドル・ユーロへの信認低下が示す構造転換

ECBは、2024年第4四半期時点で、金が「ドルに次ぐ第2の準備資産」に昇格したとしました。
背景には、以下の要因があります。

  • 国際金融システムの政治化(ロシア制裁)
  • 資本規制・資産凍結という制度リスク
  • 債務膨張・インフレによるマクロ信認の低下

主軸通貨であるドルや、ユーロを含む主要通貨への信頼性の低下が、金の国際的な位置づけを再評価する契機となったと分析されています。
2022年以降の地政学的緊張の高まりと国際金融システムの政治的利用は、これまで絶対的な信頼が寄せられてきた主要準備通貨の中立性や安定性に対する疑念を生じさせました。特に、ロシアに対する金融制裁の実施や、それに伴う外貨準備資産の凍結といった前例のない措置は、各国中央銀行に自国の外貨準備の脆弱性と依存リスクを明確に認識させました。ECBは報告書で、この傾向は独自の外交政策を展開したい新興国において顕著に見られると指摘しています。


まとめ:金は「中立な準備資産」として復権した

ECBは「2024年末の金は、米ドルに次ぐ第2の準備資産となった」と述べています。
これは長年にわたって米ドルの補完的な役割を担ってきた金が、国際金融システムにおいて中心的な位置づけを獲得したことを意味します。ECBの分析では、金の地位向上は一時的な現象ではなく国際通貨秩序の構造変化を反映していると指摘。地政学リスクや制裁懸念による構造的な金需要の高まりが継続するとの見通しが示されています。

これは短期的な市場の変動ではなく、各国中央銀行による、中長期的な外貨準備の資産配分見直しの一環と位置づけられます。
新興国の中央銀行においてこの傾向は顕著で、米ドルやユーロといった主要通貨への過度な依存によるリスクを分散するため、金保有を戦略的に増加させているケースが増えています。
このように、金は単なるインフレヘッジや安全資産という枠を超え、主権の維持や政治的リスクへの備えとして各国の戦略的ポートフォリオの核心に位置づけられつつあります。国際的な外貨準備資産は「金と厳選された複数通貨」という配分が新たな基準として確立されつつあり、価格面でも安定的な下支え機能を発揮し、「高水準での安定性と下落耐性」という特性が市場参加者の間でも広く認識されているため、各国中銀の金購入が続く限り、金相場は強気を維持すると予想されています。


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